「大規模な太陽光発電所(メガソーラー)が、太陽光を吸収して熱を持つことで、かえって地球温暖化を加速させているのではないか?」――近年、このような疑問がSNSなどで広まっています。サーモグラフィーで撮影された高温のパネル画像がその根拠として提示されることも少なくありません。
しかし、この主張は科学的に正しいのでしょうか。複数の研究や公的機関の報告書に基づき、この説の真偽を検証します。
太陽光パネルの表面温度上昇は「局所的」な現象
まず、太陽光パネルが日中に高温になることは事実です。太陽光発電は、太陽光エネルギーの一部を電気に変換しますが、変換しきれなかったエネルギーは熱としてパネルの表面に蓄積されます。サーモグラフィー画像が示す、パネル表面が60℃近くになる現象は、この物理的な性質によるものです。
しかし、この熱は地球全体の気候変動に影響を与えるほど大規模なものではありません。多くの研究が、パネルが高温になるのは地表付近の局所的な現象であり、大気中に広がるにつれて急速に拡散されることを示しています。
例えば、大規模な太陽光発電所が局地的な気温に与える影響を分析した研究では、パネルの中心部で地表近くの気温がわずかに上昇する可能性が指摘されています。しかし、この上昇効果は地表から数メートル以内で収まり、それ以上の高さでは観測されないと結論付けられています。
論文名: “Analysis of the potential for a heat island effect in large solar farms”
地球温暖化対策への貢献がはるかに大きい
「メガソーラーが温暖化を加速させる」という主張は、太陽光パネルの局所的な発熱という一面的な事実に着目したものであり、地球温暖化の根本原因である温室効果ガスの排出という観点が抜け落ちています。
地球温暖化の最大の原因は、石油や石炭などの化石燃料を燃やすことで発生する二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスです。
太陽光発電は、発電時にCO2を排出しないクリーンエネルギーです。そのため、太陽光発電を導入し、火力発電の稼働を減らすことは、温室効果ガスの排出量を直接的に削減することに繋がります。
日本の温室効果ガス排出量を公的に算定・公表している国立環境研究所も、太陽光発電を含む再生可能エネルギーの普及が、日本の温暖化対策に不可欠であると明確に位置づけています。同研究所のデータは、太陽光発電の導入が実際にどれだけのCO2排出量削減に貢献しているかを具体的に示しています。
国立研究開発法人 国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス
地域によっては「クールアイランド効果」も
メガソーラーが局所的な気温に与える影響は、一概に「ヒートアイランド効果」だけではありません。近年の研究では、パネルが太陽光を遮ることで地表の温度上昇を抑え、周囲の気温を低下させる「クールアイランド効果」が観測された事例も報告されています。
ソ
ランカスター大学
https://www.lancaster.ac.uk/news/first-evidence-shows-solar-parks-can-cool-surrounding-land
要点: 衛星データを用いた研究で、大規模な太陽光発電所の周辺700メートル範囲で、地表温度が最大2.3℃低下する現象が確認されました。
このクールアイランド効果は、パネル下の植生や土壌が日陰になること、あるいはパネルが熱を遮断することなどが原因と考えられています。
結論:メガソーラーは温暖化を加速させない
結論として、「メガソーラーが温暖化を加速させる」という主張は、科学的根拠に乏しい誤った情報である可能性が高いです。
太陽光発電パネルの局所的な発熱は事実ですが、その影響は非常に限定的です。それに対して、発電時にCO2を排出しない太陽光発電は、地球規模の温暖化の主因である温室効果ガスの削減に大きく貢献しており、両者の影響は比較になりません。
もちろん、大規模な太陽光発電施設の設置には、景観や生態系への影響など、考慮すべき点は多数あります。しかし、温暖化という地球規模の課題に対する解決策として、メガソーラーは今後も重要な役割を担っていくと考えられます。