【ミスリード】「石破総理に17億円の裏金疑惑」はミスリード。合法だが不透明な「政策活動費」を「裏金」と表現し、誤解を招く主張

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政治
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SNSや動画サイトで、「石破総理に17億円の裏金疑惑が浮上」とする情報が拡散しています。石破茂氏が過去に自民党幹事長として党から約17.5億円の資金提供を受けていたことは事実ですが、これを違法な「裏金」であったかのように扱うこの主張は、重要な文脈を欠いており「ミスリード」と判定します。この資金は「政策活動費」と呼ばれるもので、当時の法律上は合法な枠組みでしたが、その使途の不透明性が長年問題視されてきたものです。

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検証対象

2025年7月以降、YouTubeやX(旧Twitter)などで、「石破総理に17億円の“裏金疑惑”が浮上」という見出しの動画や投稿が拡散。動画では、石破氏が自民党幹事長を務めていた2012年から2014年の間に、党から総額17億5060万円を受け取り、これが政治資金収支報告書に記載されなかった「裏金」であるかのように指摘しています。また、二階俊博元幹事長が5年間で約50億円を受け取った例を引き合いに出し、問題の深刻さを訴えています。

結論:ミスリード

この言説は、事実の一部を切り取り、意図的に「裏金」という言葉を用いることで、視聴者に誤った印象を与える典型的なミスリードです。

  • 石破氏が幹事長時代に党から約17.5億円の「政策活動費」を受け取ったことは、党側の政治資金収支報告書に記載されている事実です。
  • しかし、この「政策活動費」は、近年の自民党派閥で問題となった、収支報告書に記載のないパーティー券収入のキックバックなどの違法な「裏金」とは性質が全く異なります
  • 当時の政治資金規正法では、政策活動費を受け取った政治家個人が、その詳細な使い道を報告する法的義務はありませんでした。そのため、「不透明な資金」との批判はありますが、ただちに「違法な裏金」と断定することはできません。

検証の詳細

1. 「17.5億円」は事実か?

まず、金額の事実関係を確認します。石破茂氏は、2012年9月から2014年9月までの約2年間、自民党幹事長を務めました。この期間に、自民党本部から石破氏が代表を務める政治団体「自由民主党鳥取県支部連合会」に対し、多額の「政策活動費」が支出されています。

総務省が公開している自民党本部の政治資金収支報告書を確認すると、以下の支出が記載されています。

  • 2012年(平成24年): 3億8500万円
  • 2013年(平成25年): 8億5560万円
  • 2014年(平成26年): 5億1000万円

合計すると17億5060万円となり、動画で指摘されている金額と一致します。この金額が党から石破氏側に渡ったこと自体は、公的記録に基づく事実です。

ソース
総務省 政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書
https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/

2. 「政策活動費」とは何か?

では、この「政策活動費」とは何でしょうか。これは、政党が、党の政策の調査研究や広報、選挙対策などの政治活動を円滑に進めるために、党の幹部などの政治家個人に支出する資金のことです。

重要なのは、政治資金規正法におけるその扱いです。資金を支出した政党側は、「(氏名)への政策活動費」として、誰にいくら渡したかを収支報告書に記載する義務があります。実際に、自民党の報告書には前述の通り記載されていました。

一方で、資金を受け取った政治家側は、そのお金を何に、いつ、いくら使ったのかという具体的な使途を報告書に記載する法的義務がありません。このため、政策活動費は「使途がブラックボックス」「政党から政治家へのポケットマネー」などと厳しく批判されており、日本の政治資金制度における長年の課題とされてきました。

3. なぜ「裏金」ではないのか?

今回の言説の最大の問題点は、この政策活動費を、世間を騒がせた「裏金」と意図的に混同している点です。

近年、問題となった自民党派閥の「裏金」問題は、主に以下の手口によるものでした。

  1. 派閥が主催する政治資金パーティーで、所属議員に販売ノルマを課す。
  2. 議員がノルマを超えて集めた分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載せず、簿外の資金(=裏金)を作る。
  3. その裏金を、所属議員にキックバック(還流)する。議員側も自身の収支報告書に記載しない

このように、「裏金」は収支報告書への不記載を伴う、明確な政治資金規正法違反の資金です。

対して、石破氏が受け取った政策活動費は、支出元である自民党の収支報告書に明確に記載されている、法律の枠組みに則った資金です。両者は、「収支報告書への記載の有無」という点で根本的に異なります。合法ではあるものの、使途が公開されないため倫理的な問題を抱えているのが「政策活動費」であり、そもそも違法な簿外資金が「裏金」です。この二つを同一視することは、問題を不正確に伝える行為です。

4. 「不透明」という問題点と政治改革の動き

もちろん、政策活動費が問題ないわけではありません。年間数億円にも上る公金の原資(政党交付金)を含む資金が、使途を明らかにされないまま幹部政治家に渡る仕組みは、国民の政治不信の大きな要因です。

動画で比較対象とされた二階俊博元幹事長も、5年間で約50億円という巨額の政策活動費を受け取ったことが報じられており、その不透明性が厳しく問われました。

こうした批判を受け、2024年に成立した改正政治資金規正法では、政策活動費の透明化が大きな焦点となりました。最終的に、使途の公開については限定的なものに留まりましたが、「第三者機関による監査」や「10年後の使途公開」などが議論され、今もなお改革が求められているテーマです。

ソース
NHK政治マガジン「改正政治資金規正法ポイント解説 成立までの経緯 背景も」
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/104266.html

判定に至った理由

以上の検証から、拡散している動画や投稿は、以下の点で「ミスリード」と結論付けます。

第一に、石破氏が党から資金提供を受けていたことは事実ですが、これを政治資金規正法違反である「裏金」と断定している点は誤りです。合法的な「政策活動費」と違法な「裏金」を意図的に混同させ、視聴者に石破氏が違法行為を行ったかのような印象を与えています。

第二に、「収支報告書に記載されなかった」という主張も不正確です。支出した自民党側の収支報告書には明確に記載されており、問題の本質は、受け取った側の使途報告に法的義務がないという制度上の課題にあります。

したがって、この言説は事実と虚偽を巧みに織り交ぜ、特定の政治家への批判を煽ることを目的とした、典型的なミスリード情報と言えます。

FACTCHECK Scienceのコメント

政治資金の問題は、民主主義社会において国民の関心が非常に高いテーマです。特に「裏金」という言葉は、近年の政治不信の象徴ともなっており、強いインパクトを持ちます。今回の言説は、その言葉の強さを利用し、異なる性質の問題を一つにまとめることで、人々の怒りや不安を増幅させる狙いがあると考えられます。

「政策活動費」の不透明性は、確かに追及されるべき重要な政治課題です。しかし、その問題を議論するのであれば、正確な言葉と事実に基づいて行う必要があります。異なる問題を「裏金」という一つの言葉で括ってしまうことは、本質的な議論を妨げ、健全な世論形成を阻害する危険性があります。私たちは、情報を受け取る際に、それが事実に基づいているのか、あるいは特定の印象操作を意図していないか、慎重に見極める必要があります。

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