【不正確】「国籍詐称の議員がいる」は誤り。だが「二重国籍」の法的論点は存在する。国会議員の国籍要件の全貌

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政治
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SNSで「国籍詐称してる国会議員の方が悪質だ」といった言説が拡散しています。外国籍の人物が身分を偽って議員になるという意味での「国籍詐称」は、立候補時の戸籍確認により制度上不可能です。しかし、この言説がしばしば問題視する「二重国籍」については、日本の国籍法に曖昧な側面があり、国会議員の資格を巡る重要な法的論点が存在します。このため、「国籍詐称」という言葉で問題を単純化する元の主張は「不正確」と判定します。

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検証対象

X(旧Twitter)などのSNS上で、「学歴詐称より国籍詐称の方が悪質だ」といった、具体的な根拠を示さないまま国会議員全体の信頼性を揺るがすような投稿が拡散しています。関連する投稿では、特に帰化によって日本国籍を取得した議員を不当に「犯罪者」扱いしたり、「二重国籍」問題を悪意をもって「国籍詐称」という言葉にすり替えたりする、差別的な内容が見受けられます。

結論:不正確(ただし、重要な法的論点が存在)

「国籍を詐称している(=日本国籍ではないのに偽っている)議員がいる」という主張は、選挙制度上不可能であり「不正確」です。しかし、この問題の背景には、より複雑な「二重国籍」というテーマが存在し、こちらは単純に「誤り」と断じることのできない、未解決の法的・政治的課題です。

  • 「国籍詐称」は不可能:立候補時に戸籍謄本(抄本)の提出が法律で義務付けられており、これにより候補者が「日本国籍」であることは確認されます。この点において、非日本国民が議員になることはできません。
  • 「帰化議員」は完全に合法:国籍法が定める厳格な審査を経て日本国籍を取得した国民は、生まれながらの国民と全く同等の権利(被選挙権を含む)を有します。その正当性を疑うことは、法の下の平等を否定する差別的な行為です。
  • 本当の論点「二重国籍」:一方で、日本の国籍法は、重国籍者が日本国籍を選択した後、外国籍の離脱を「努力義務」とするに留めており、事実上の二重国籍状態が継続する可能性があります。これが「国籍詐称」と混同され、誤解の温床となっています。

検証の詳細

1. 「国籍詐称」が不可能な理由:立候補時の戸籍による証明

公職選挙法は、国会議員の被選挙権の絶対条件として「日本国民であること」を定めています。この要件は、立候補の届出の際に、添付書類として「戸籍謄本又は戸籍抄本」を提出することによって厳格に確認されます。戸籍は日本国民のみに編製される公的な身分登録制度であるため、戸籍謄本を提出できること自体が、その人物が日本国籍を有する強力な証明となります。このため、外国籍のみの人物が素性を偽って国会議員になるという意味での「国籍詐称」は、制度上不可能です。

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電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

2. 「帰化議員」の正当性:法律が保障する完全な権利

「帰化」とは、国籍法に定められた厳格な条件(5年以上の居住、素行善良、生計能力など)を満たし、法務大臣の許可を得て正式に日本国民となる法的手続きです。このプロセスを経た帰化国民は、生まれながらの国民と法的に全く同等の権利と義務を持ちます。これには当然、選挙に立候補する権利(被選挙権)も含まれます。帰化した政治家の正当性を疑うことは、日本の国籍法そのものが定める市民権のあり方を否定する、差別的な主張に他なりません。

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3. 本当の論点:「二重国籍」問題の法的実態

国籍に関する言説が複雑化する最大の要因が、「二重国籍」問題です。日本の国籍法は「国籍唯一の原則」を基本としており、出生などにより意図せず重国籍となった日本国民に対し、一定期間内に国籍を選択する義務を課しています。

重国籍と日本の国籍法 – 国際法学会 "JSIL" Japanese Society of International Law

しかし、ここで極めて重要なのが、日本国籍を選択する「国籍選択宣言」を行った後の義務の性質です。国籍法第16条は、もう一方の外国籍の離脱を「努力義務」と定めています。これは法的な強制力や罰則を伴うものではなく、結果として事実上の二重国籍状態が継続する可能性があります。これが、しばしば「国籍詐称」と悪意をもって混同される法的実態です。

法務省:国籍の選択について
法務省のホームページです。

この問題は、過去に蓮舫参議院議員の事例で大きな政治的論争となりました。しかし、この論争の中心は、あくまで「国益に関わる政治家が複数の国籍を持つことの是非」であり、蓮舫氏が「日本国民ではない」という話ではありませんでした。この「二重国籍の是非」という政策論争と、「国籍詐称」という人格否定のレッテル貼りは、明確に区別されるべきです。

4. 実例:帰化を経て国会議員になった人々

実際に、日本には外国籍から帰化し、有権者の信託を得て国会議員として活動してきた人物が複数存在します。ヨーロッパ出身者として初めて国会議員となったフィンランド出身のツルネン・マルテイ氏や、韓国にルーツを持つ白眞勲氏などがその代表例です。彼らの存在は、帰化した日本国民が国の最高機関で議席を得ることが法的に可能であり、また社会的に受け入れられてきた事実を明確に示しています。「国籍詐監視」という言説がいかに現実と乖離しているかの証左と言えるでしょう。

判定に至った理由

以上の検証から、「国籍を詐称している国会議員がいる」という主張は、非日本国民が身分を偽っている、という意味で使われている場合、選挙制度上ありえないため「不正確」です。

しかし、この言葉がしばしば「二重国籍の議員」や「帰化した議員」を問題視する文脈で使われることを考慮すると、その背景には日本の国籍法が抱える「努力義務」という曖昧さや、特定の出自を持つ人々への偏見が存在します。問題を「国籍詐称」という単純な不正行為として断じることは、この複雑な法的・政治的背景を無視することになり、不正確なレッテル貼りであると結論付けます。

FACTCHECK Scienceのコメント

国籍やルーツに関する話題は、人々の不安や偏見を煽りやすく、政治的な分断を生むために利用されやすいテーマです。本件は、単純な言説を「誤り」と判定するだけでは、その背後にあるより複雑で正当な議論を見えなくさせてしまう危険性を示しています。私たちの役割は、デマや差別を明確に否定すると同時に、論点のすり替えや言葉の誤用を指摘し、建設的な公論に必要な正確な情報と文脈を提供することです。帰化国民への差別と、公職者の資格に関するガバナンスの議論は、明確に区別して考える必要があります。そのためには、私たち一人ひとりが、言葉の定義を正確に理解し、複雑な問題を単純な善悪二元論に落とし込まない、知的な誠実さが求められます。

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