【詳細ファクトチェック】「中国の人口は14億人ではなく3億人」は誤り。公的統計と著しく乖離、情報源も不明確な偽情報

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SNSを中心に「中国政府が発表する14億人という人口は嘘で、本当は3億人程度しかいない」という言説が、元WHO職員からの情報として拡散されています。しかし、この主張は中国自身の公式発表、国連や世界銀行などの国際機関が公表する信頼性の高いデータと全く一致せず、客観的な根拠に欠ける「不正確」な情報です。

また、この言説と合わせて語られる「ロシアの人口は8億人」という情報も事実ではありません。

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検証対象となった言説

2025年7月頃から、X(旧Twitter)やYouTube、TikTokなどで、「中国 人口も嘘ついてた」「政府発表14億8280万人ではなくホントは3億2400万人程度!」といった文章と共に、数値を強調した画像が拡散されました。

これらの投稿の多くは、情報の根拠を「元WHO職員のYouTube暴露」としており、あたかも内部告発によって隠された真実が明らかになったかのような体裁をとっています。

結論:不正確

中国の人口を約3億人、ロシアの人口を8億人とするこの主張は、あらゆる信頼できるデータと照らし合わせて、極めて不正確と判定します。

1. 数値の乖離: 主張されている人口は、中国・ロシア両国の公式統計や国際機関の推計から数十パーセントどころか数倍のレベルでかけ離れており、現実的ではありません。
2. 情報源の不透明性: 主張の唯一の根拠とされる「元WHO職員」は、氏名や具体的な所属、時期が一切示されておらず、その存在を確認できません。信頼できるメディアや機関による報道もなく、匿名の伝聞に過ぎません。

検証の経緯と詳細

1. 中国の人口:公式データとの比較

拡散情報が主張する「約3億人」という数値が、いかに現実と異なるか、複数の公的データから確認します。

中国政府の公式発表
中国の人口統計を管轄する中華人民共和国国家統計局は、10年に一度の国勢調査と、毎年実施する人口変動サンプリング調査に基づいて数値を発表しています。最新の公式発表(2024年1月17日)によると、2023年末時点での中国の総人口(台湾、香港、マカオを除く)は14億967万人です。

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National Bureau of Statistics of China

国際機関による推計
各国の統計の信頼性を相互に検証し、国際比較可能なデータをまとめている国際機関も、中国の人口を14億人規模としています。

  • 国連(UN): 国連経済社会局が発表した「世界人口推計2024年版」では、2024年7月1日時点の中国人口を14億1932万人と推計しています。この報告では、2023年にインドが中国を抜き、世界で最も人口の多い国になったことも大きなニュースとなりましたが、その議論の前提となる中国の人口規模は14億人台です。
    https://population.un.org/wpp/
    United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division “World Population Prospects 2024”
  • 世界銀行(World Bank): 世界銀行がまとめるデータでも、中国の人口は一貫して14億人規模で推移しており、他の機関のデータと整合性が取れています。
    https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=CN
    The World Bank Data

このように、複数の異なる機関による科学的、体系的な調査結果が「14億人規模」という点で一致しており、「3億人」という数値が入り込む余地は全くありません。

2. ロシアの人口:「8億人」という非現実的な数値

この言説に含まれる「ロシアもせいぜい8億」という部分も、基本的な事実誤認です。

ロシアの公的統計を担う連邦国家統計局(Rosstat)によると、2025年1月1日時点のロシアの総人口は約1億4612万人です。

https://rosstat.gov.ru/ロシア連邦国家統計局(Rosstat)

「8億人」という数値は、実際の人口の5.5倍近くに相当します。これは、EU(欧州連合)全体の人口(約4億5000万人)と、アメリカ合衆国の人口(約3億4000万人)を足し合わせた数に匹敵する、ありえない規模の数値です。

3. 「元WHO職員」という情報源の信憑性

この偽情報が巧妙なのは、「内部告発」という形式をとることで、公的発表への不信感を煽り、信憑性を演出しようとしている点です。しかし、この情報源は全く信頼できません。

  • 存在の不確認: 「元WHO職員」と主張する人物の氏名、国籍、専門分野、在籍期間といった具体的な情報が一切なく、第三者が検証することが不可能です。信頼できるメディアで、このような重大な「暴露」を報じたものは存在しません。
  • 専門性の不一致: WHO(世界保健機関)は、感染症対策や公衆衛生を主導する国連の専門機関です。人口動態や国勢調査は、各国の統計部門や、人口学を専門とする国連経済社会局人口部などの専門分野です。仮にWHOの職員が人口について発言したとしても、それは専門外の意見であり、一次情報源とはなり得ません。
  • 「権威に訴える」手口: 「元政府職員」「元〇〇研究者」といった匿名の肩書を使い、情報の信頼性を高めようとするのは、偽情報や陰論で頻繁に用いられる手口です。

判定に至った理由

以上の詳細な検証に基づき、この言説は複数の点で事実と反することが明らかです。

第一に、中国とロシアの人口に関する数値が、両国の政府、国連、世界銀行といった信頼できる機関が公表するデータと天文学的な差があること。第二に、情報の唯一の根拠である「元WHO職員」が、存在も専門性も確認できない極めて不確かな情報源であること。

これらの理由から、FACTCHECK Scienceはこの言説を「不正確」であると判定します。これは単純な間違いや解釈の違いではなく、事実に基づかない主張です。

FACTCHECK Scienceのコメント

公的機関が発表する統計に対する不信感や、「何か巨大な真実が隠されているはずだ」という探求心は、時にこうした大規模な偽情報が拡散する土壌となります。しかし、科学的な人口統計は、国勢調査やサンプリング調査など、長年にわたって洗練されてきた手法に基づいており、複数の国際機関によって相互にチェックされています。

特定の国や組織に対する不信感が、客観的なデータまでをも否定する姿勢に繋がらないよう、情報の出所とその信憑性を冷静に見極めることが重要です。匿名の「内部告発」には、特に慎重な姿勢が求められます。

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